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「……兄さんのところに?」
「あぁ、先に俺のとこに役所から電話があって」
「だから……」
あれ以来、禅さんのとこにも何も来ていないようで良かったな。これから彼は紗柚ちゃんに会いに行って、挽地さんご一家とお食事会をするらしいの。
一歩ずつ、ふたりも進んでいるんだね。
「梨世さん」
「はい」
「まじで、弟をよろしくお願いします」
「まかせてくださいっ! こちらこそ、よろしくお願いします!」
私は満面の笑みで禅さんに向き直ると、彼の綺麗な二色の瞳が優しく揺れた。
「次会えるのは、式?」
「そーだな、俺も今忙しいし」
「それでも時間作れる兄さんがすごいや」
「有能な秘書がいるからな」
「ふふ」
いつの間にか、昔から知っていたみたいに仲良くなっていたふたりは、今日は朝まで語り明かしたいとか言ってるからママが帰ったあと、私はひとり先にベッドに入る。
いつまでも明るいリビングに、時折こっちまで届く賑やかな笑い声に自然と笑顔になる。
「……えへ、楽しそう」
私のそんな密かな独り言は溶けて消えたけど、彼らの時間はまだまだ足りない。
なんて言ったって、25年分の空白を……埋めるためにお互い歩み寄っているから。
それを、私は応援するだけ。
「……僕ね、梨世ちゃんと結婚して本当に幸せなんだ」
「……あぁ、今のお前の顔、まじで幸せそうだもんな」
小さく聞こえたその会話に、涙が出そうになった。
私だって、こんなに自分が幸せになれるなんて思っていなかったよ。
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