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僕が、12年前にオーディションを受けた日。
そこにいたのが、この……前社長。
――(木暮尚 13歳です)
――(……君は、男の子?)
――(はい)
――(すごく……可愛いね)
そう言われて、僕を合格にしてくれた。
僕を、男だってわかってて……女の子として、モデルの世界に入れてくれた。Re: グループ……そう、女性誌の社長。
この人が雇ってくれなかったら、今の僕はない。
蘭華さんに恩返しも出来ていない。
――(奈緒ちゃん、君は……)
――(僕は、学校も行ってないです。だから、撮影スケジュールは好きなように組んでください。僕はどんなにキツくても、働くから)
――(そんなにきつくするつもりはないよ。ねぇ、そんなに自分を追い詰めるのはどうして?)
――(僕に出来ることはこれしかないから。これも出来ないとか、きついとか、そんなこと言ってたら僕の存在意義はない)
――(奈緒ちゃん、君の姿を見て……君を真似したい人がいる。それだけで誰かのためになってる。それは立派な存在意義じゃないかい?)
死んだほうが良かったって言われ続けた僕に、蘭華さんとは違う向きから、少しずつ自信をつけさせてくれた人。
僕の髪を綺麗だと言ってくれた。
僕の肌を人形のように美しいって言ってくれた。
僕のパーツすべてが、世の女の子の憧れだと言ってくれた。
――(奈緒ちゃん、君の趣味は?)
――(カメラ)
――(うん、じゃあそれだけプロフィールに入れるね)
――(はい)
僕を、木暮尚を……小暮奈緒にしてくれた僕のかけがえのない大事な恩人。
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