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3月になり、忙しさは勢いを増す。
社内で尚くんに会うことも減ってくるぐらい私と彼の仕事は別々に進んでいた。
「少し……出てきた」
お腹に優しく手をあてると赤ちゃんが少し大きくなってきたのがわかる。
「えへへ」
そろそろ、公表しなくちゃだな。
私も、しばらくしたら産休だなぁ。
撮られたくてうずうずしちゃいそう。
来月には性別もわかるかな?
結局、眠気だけで悪阻もほとんどなかったし仕事にも全然支障をきたさなかったし、運がいい。
髪は、仕事上シルバーはさすがに着る服が限られちゃうってことで蘭華さんに却下されてしまったから、ピンクブラウンのグラデにした。
長さも、鎖骨下ぐらいになってかなり伸びた。
尚くんがロングの私も見たいと言うから伸ばしてあげるの。
「――梨世ちゃん、次、浴衣ヘアアレンジの撮影ね」
「はい!」
あれ?
柱の横からシルバーの髪が見える。
……尚くん?
「尚く……」
「……はぁ」
「尚くん?」
「あ……梨世ちゃん……ごめん、ちょっと休憩してた。見つかっちゃったね、ふふ」
「大丈夫? 体調悪そう……」
壁にもたれてしゃがむ彼は肩で息をしているようで苦しそう。
前に熱を出したとき、死にたくなってしまってたことを思い出す。
もう、そうはならないと思いたいけど……
「……尚くん、おいで」
「……!」
彼が少しでも落ち着けるように、手を広げて頭から彼を優しく包み込んであげると、安心しきった顔で私に身体を預けてきてくれた。
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