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斜め前から感じる意味ありげな視線にも「黙れ」と念を込めて送り、真野さんに頼まれてた記事を編集しようとして気づいた。
「梶浦さんは二日酔いじゃないんですか?」
「うん。俺ね、ある程度まで行くと記憶がどーんと飛んじゃうんだ。多分寝てんのかな?次の日には何にも残ってなくて」
「・・・そうでしたか」
「俺寝てた?変なことしてないよね・・?」
まあ、覚醒はなさってましたけど。
「楽しそうに飲んでただけです、大丈夫ですよ」
「良かったあ」
無邪気に窺う瞳を前に、真実を告げる方が悪人な気がする。
そこで含み笑いしてる東雲さんも、この顔に絆されて今まで黙ってたんだよね?
決して面白がってるわけじゃないよね?
思う所はあるものの、心配してた状況にはならずに済んだと安心すると少しだけ気分も楽になってきた。
あとでもう一度薬を飲んで、ちゃんと仕事しよう。そう決めた時、ふと隣から何かが聞こえ始めた。
「女王様・・」
遺言かなあ。
突っ伏した顔の隙間から届く消え入りそうな声に皆の視線が集まる。
すると梶浦さんが閃いたように手を叩き、「原稿の日か」と叫んだ。
その大声がトドメになったらしく、今次さんが「ううっ」と呻いて荒い呼吸を繰り返す。
「原稿?」
「連載小説の原稿だよ。今次が担当してるんだ」
「ああ、女王様のペディキュアの」
納得のいく答えに、私も思わず手を叩いてしまう。
今わの際に仕事の言葉を発するなんて、なんだかんだでやる気はあるんだな。
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