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しばらくして、小さな封筒を西奴さんに手渡される。
中にはUSBメモリが入っていて、どうやら毎回この方法で今次さんに渡しているらしい。
原稿というとなんとなく束になった用紙を想像しがちだったけど、今はこんな時代なんだなあ。
「はい、確かにいただきました。どうもお疲れ様です」
あまりに丁寧に差し出すから、私も見習って両手で受け取り中を確認してから鞄にしまい込む。
すると西奴さんはきょとんと首を傾げ「確認は良いんですか?」と小さく問いかけてきた。
「確認ですか?今次さん、この場でされてます?」
「はい、そこのソファがお気に入りって、お菓子食べながらよく寝転んで・・」
馬鹿な先輩で本当に申し訳ありません。
「担当は彼ですから、戻ってから改めてご連絡いたしますね」
「そっそうですよね!女性の方にこんなとこで寝転べなんて失礼でした」
いや、そっちじゃないし。
少し天然混じりの謙虚さで肩をすくめる西奴さんに、三度目の『年上には見えない』という標語を浮かべる。
変に気位の高い作家さんよりはマシだけど・・と苦笑いが漏れた時、ふと手元に置いたコンビニの袋に気づいた。
「大したものじゃないんですが、というか譲って頂いたものですみません。良かったら」
テーブルの上にケーキの箱と缶コーヒーを3本並べて置くと、西奴さんは慌てた様子で駈けて行き、台所と思しき所から例のチーズケーキを抱えて戻ってくる。
考えていたことは同じだったのか。
堪えきれずにクスッと笑うと、ようやく西奴さんも照れたようにほほ笑んだ。
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