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「女の人が来るって初めてなんで、よくわかんないまま選んじゃって」
「ありがとうございます。このチーズケーキ美味しいですよ。私もよく買ってます」
「よ、よかった。あ、ならこっちとこっち、半分ことかどうですか」
「お皿持ってきますっ」と再び走っていく西奴さんの背中に、気を使わないで・・といっても無駄だろう。
元々がそういう性分なのかもしれない、だってまだ見知らぬ者同士だったあの時点で、私にケーキを譲ってくれたのだから。
一生懸命さがとても嬉しい。
そして言い方もなんだか可愛い。
ちょこんと並ぶ二つのケーキが、二日酔いで蝕まれた神経をさらに痛めようとも厭わない。
「ホントだ、美味しいですねえ・・!」
嘘じゃない感動を隠しもせず見せる西奴さんに、今日ここへ来て良かったと思いながら笑みを返す。
今次さん、この担当変わってくれないだろうか。
「西奴さんがお若い方だとは窺ってたんですが、実際会ってみて驚きました。失礼ですけど、本当に27歳なんですか?」
「あはは・・詐称はしてないです。童顔だからか、舐められがちで・・」
「若く見えるっていい事じゃないですか。それでいてあんな深みのある作品を書かれてて、尊敬します。西奴さんの描く心理とか言葉の言い回し、とても素敵だと思いますよ」
主人公の行動が受け身がちなのは、西奴さん自身の考え方から来てるのかもしれない。
しきりに顔を赤らめて照れる西奴さんに、ふと思い立った疑問をぶつけてみた。
「主人公は西奴さん自身を投影されてるんですか?」
何気にない質問のつもりだったのに、西奴さんは驚いた顔で私を見つめ、ぶんぶんと手を振る。
「め、滅相もない!」
うわ、すごい慌てっぷり。
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