epi.7

13/17
前へ
/17ページ
次へ
「女の人が来るって初めてなんで、よくわかんないまま選んじゃって」 「ありがとうございます。このチーズケーキ美味しいですよ。私もよく買ってます」 「よ、よかった。あ、ならこっちとこっち、半分ことかどうですか」 「お皿持ってきますっ」と再び走っていく西奴さんの背中に、気を使わないで・・といっても無駄だろう。 元々がそういう性分なのかもしれない、だってまだ見知らぬ者同士だったあの時点で、私にケーキを譲ってくれたのだから。 一生懸命さがとても嬉しい。 そして言い方もなんだか可愛い。 ちょこんと並ぶ二つのケーキが、二日酔いで蝕まれた神経をさらに痛めようとも厭わない。 「ホントだ、美味しいですねえ・・!」 嘘じゃない感動を隠しもせず見せる西奴さんに、今日ここへ来て良かったと思いながら笑みを返す。 今次さん、この担当変わってくれないだろうか。 「西奴さんがお若い方だとは窺ってたんですが、実際会ってみて驚きました。失礼ですけど、本当に27歳なんですか?」 「あはは・・詐称はしてないです。童顔だからか、舐められがちで・・」 「若く見えるっていい事じゃないですか。それでいてあんな深みのある作品を書かれてて、尊敬します。西奴さんの描く心理とか言葉の言い回し、とても素敵だと思いますよ」 主人公の行動が受け身がちなのは、西奴さん自身の考え方から来てるのかもしれない。 しきりに顔を赤らめて照れる西奴さんに、ふと思い立った疑問をぶつけてみた。 「主人公は西奴さん自身を投影されてるんですか?」 何気にない質問のつもりだったのに、西奴さんは驚いた顔で私を見つめ、ぶんぶんと手を振る。 「め、滅相もない!」 うわ、すごい慌てっぷり。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

416人が本棚に入れています
本棚に追加