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私としては、女性を立てる控えめな思考に感心して訪ねたつもりだったのに、もしかして「ドMなんですか」と聞いてるようなもんだった?
「僕はあんな、大企業に新卒入社なんてとてもとても・・まず度胸がないし、年上の彼女なんて夢のまた夢です」
「そ、そうですか」
「人見知りだし・・あんまり外も出ないし・・唯一話すのは今次さんか梶浦さんくらいで」
しまった、変な方向へ進ませちゃったみたい。
ずーんと重い影を背負いだす西奴さんがより小さくなり、慌てて話題を変える。
「私も最初から読ませて頂いたんですけど、とても素敵な話ですよね。SMのことはまだ勉強不足なんですが、それを抜きにしてもお互いのもどかしい感じに感情移入して、続きが気になります」
かといって、今次さんのように図々しくこの場で読みふけりはしないけど。
「2人が幸せになったらいいなって。一読者として望んじゃいますね」
「・・ありがとうございます。なんか、小見さんみたいな感想って新鮮で、照れくさいな」
いやあ、と髪を見出してはにかむ姿は、純愛小説を書いている純朴な青年そのもの。
「ふふ、でも毎回すごい数の感想来てますでしょう」
「それは有難いんですが・・・大体はプレイ内容についてのリクエストで」
うーん、やっぱり本人か。
影武者説も取っておきたかったけど、そろそろ現実を認めなきゃいけないな。
二個目のケーキを食べつつ、西奴さん宛てに届いていたメールのタイトルが『蝋燭って』『今回の緊縛シーン』塗れだったことを思い出す。
読者だって西奴さんを見たらきっとビックリして、ゴーストライター説でも湧き上がるんじゃないだろうか。
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