epi.7

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「10時・・約束・・」 「その調子じゃ夜の10時でも行かれないよ、今日はじっとしてなって」 「大丈夫っす・・すぐ済むんで・・」 力のない声で呟きながら、今次さんがふと右手を上げ、弱々しく振る。 それが私を手招いてるように見え、躊躇いつつも耳を近づけた。 「三つ向こうの田川駅で降りてまっすぐ進んで・・二つ目の信号のコンビニ・・その手前のマンション703号室だから・・」 めっちゃくちゃ押し付けられてる。 すぐ済むって私への伝言の事かい、それくらい事細かに告げた後今次さんは今度こそ動かなくなった。 やがて聞こえてきた寝息に盛大に息を吐き、打ち込みのために縛っていた髪を解く。 「え、小雪ちゃんホントに行くの?やることあるんでしょ、俺が後で・・」 「大丈夫です。編集はこの分だけですし、こういうのも勉強になるので」 それに男女問わず絶大な人気を誇る作家の素顔にも興味がある。 電車に揺られるのはきついけど、パソコンに向かい続けるよりは気分転換になるかもしれない。 「さすが。良いもの食べて栄養つけてるからやる気があるねえ」 このクソ憎たらしい上司と離れられるのも良い特効薬だ。 「良いもの?」 「昨日盛大に歓迎して頂いたんで、なんでもやりまーすってことです。じゃあ、行ってきますね」 間違ってはないし、と無理やり笑顔で誤魔化しながら、さっき脱いだばかりのジャケットを羽織り、初原稿取りへと向かった。
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