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通子が恥じらっている。なんだこれ。なんで今日に限ってこんなにドキドキさせられるんだ。
何が起こっているんだ。
これは夢か。
いや、夢じゃない。夢であってなるものか。
鼓動が早い。頬も熱い。
何か喋らないと。
だが、焦れば焦るほど晴樹の頭は回転を鈍らせていった。
「よ……読ませてくださいね、その小説」
「え、あ、どうだろ……」
「だってほら、こんなに協力したんですから」
「あ……そう……だね」
「これはもう、二人の合作ですよ」
「合作……」
「初めての共同作業ですね!!」
「は……初めての? きょ……?」
通子が戸惑っている。その仕草がまた、晴樹の心に燃料をくべてくれる。
彼の心は、今やすっかり暴走状態に入っていた。
「初めてです。もちろん俺だって!!」
「え……と……なんか、怖いんだけど……」
彼女がここで言うのは、もちろん春樹の意味不明な熱量に対してである。だがしかし、暴走状態に入っている春樹にはそんな判断力皆無なのであった。
「大丈夫です!! 誰だって最初は初めてなんですから!! 俺に至っては、男なのに処女作ですよ」
その挙句に飛び出したセリフは、場を凍り付かせるに充分な冷気を帯びていた。
通子の顔から笑みが消える。
恥じらいも戸惑いも消え、それと同時に意味も無く燃え上がっていた晴樹の心も、すぅっと火を落とした。
「あれ?」
晴樹の頭の中に、先ほどまでの暴走っぷりが何度もリフレインされる。そして、外からは刺すような通子の視線。晴樹は自分の心にひびが入る音を確かに聞いた。
「晴樹……」
「はい……」
「あなたにはガッカリしたわ……」
彼女はきっぱりとそう言い、大きなため息だけを残して、そのまま図書室を出て行った。
ドアの締まる音と共に、彼の中には猛烈な後悔の波が押し寄せてきた。波なんて優しい物じゃない。怒涛だ。
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