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バカバカ俺のバカ、死んじゃえ。
月下美人の如く美しく、そして稀な通子の照れ笑い、恥じらい、困惑。それを自らの一言で台無しにした。
台無しどころじゃない。粉砕し、擦り潰し、水で溶いて、ホットプレートで焼いて、食べて、消化して、排泄してしまった。
怒りのぶつけ所が無さ過ぎて、自らを脳内で罵った。それだけでは飽き足らず、机に自らの頭を叩きつけた。死なない程度に、だが出来るだけ痛くした。
なぜならば、自殺をする勇気は無いけれど、自分を目いっぱい罰しておきたかったからだ。
ガンガンと無機質な音が図書室にまで響く。
いつの間にか来ていた利用者の一人、可哀想な女子生徒は本を返却したかっただけなのだ。
だが、半開きになった事務室のドアの向こうから聞こえてくる異音に、様子を見ずにはいられなかった。
そして彼女は見てしまう。
机に頭を叩きつける図書委員の姿を。
彼女の見ている前で、ぴたりと動きを止めた晴樹は、顔だけを彼女の方に向けた。
「何か?」
その口調はあまりに冷静だった。
それが、彼女の恐怖心をさらに煽る結果となる。
「あ、あの……返却を……」
半泣きになった彼女が、蚊の鳴くような震え声で言う。
「ああ、はいはい。返却ね」
額を真っ赤にして、髪もぐしゃぐしゃのままにも拘らず、晴樹は実に冷静な口調でそう言った。事務室を出て、カウンター越しに彼女から本を受け取る。
貸出カードと本をチェックしながら、ふと晴樹はその女子に顔を向けて言った。
「ねえ、殺してくんない?」
「い……嫌です」
泣きながらぶんぶんと首を左右に振る女子は、貸出カードを受け取ると脱兎のごとく走り去った。
この日、二代続けて顧問にこてんこてんに怒られた図書委員長として、晴樹は図書委員会の歴史に名を残したのであった。
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