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デイビーが死んだ。
盲目のピアニスト、厚司を影で支えていた盲導犬のデイビーが癌で死んだ。
動物病院でデイビーの亡骸の、その冷たくなった身体の感触。
厚司は大声で泣いた。
後任の盲導犬エルザも鼻をデイビーの乾いた鼻に擦り付けて、その厚司の『目』となる遺志を継ぐことを誓った。
厚司を裏で支えた妻は、定期的に厚司がデイビーと共に世界各地でピアノ巡業に訪れた先々で撮った写真の数々を、デイビーを盲導犬育成の年齢まで育てたパピーウォーカーのボランティアを務める悠子に封書で送っていた。
世界各地の名所や絶景で、デイビーのハーネスを持った厚司との2ショット。
厚司がコンサートでピアノを演奏している傍らで、座って寛ぐデイビー。
何処かのお祭りで、ハーネスにカラフルな風船をいっぱい付けて楽しげなデイビー・・・
いろんなデイビーが要る。
これら写真をアルバムに大事に保管していた悠子は、デイビーの訃報を聞いて在りし時のデイビーに涙を流して染々と見詰めていた。
「これが最期に送られたデイビーの写真ね・・・」
それは、癌を患って動物病院へ入院に行く直後に厚司がデイビーを抱き締めている写真。
ここでは既にデイビーは盲導犬登録は抹消され、厚司がハーネスを握る新たな盲導犬のエルザが座っていた。
「そうだわ・・・」
悠子は戸棚からもう一冊の小さなアルバムを取り出した。
それは、デイビーがまだ仔犬時代で、パピーウォーカーの悠子に預けられた時に記録した写真が納められていた。
早速、悠子はアルバムを開いた。
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