大往生

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妻を亡くした3年前からみんなよく気を使ってくれた。疲れるだろうにそれを顔に出さずに付き合ってくれた。 感謝しかない。 さて、そろそろ逝くとしよう。ありがとう。俺は幸せだったよ。 ◇ この日、1人の男性が老衰死した。 周囲はそれを悲しんだが、笑って送った。 みんなの目には涙が滲んでいたがそれを流す者はいなかった。 優しい人だった。困っている事があれば手を貸してくれたし、時に引き起こす騒動は時間が経つと笑えるものばかりだった。 だから、そろそろ死ぬという話を聞いた時は悪い冗談だと思った。 この人の勘はよく当たる。それは主に自身や他人の身に起きる悪い事、例えば怪我だったりといったものに限定されるがよく当たる。 それで九死に一生を得た者がいる程の精度を誇っていたのだ。 そして彼を恩人だという方々が多い。 そんな人がそろそろ自分が死ぬと言ったのだ。最近は起きるのも億劫だといってだんだん布団から出なくなっていた。 みんなが出来る限り予定を合わせて駆けつけた。来れなかった人も予定を調整して最近、挨拶に来ていた。 そして誰もが知っている瞬間。その日が今日、来てしまった。 「わしは・・・」 寝たまま目をうっすらと開けた老人が言葉を零す。 「そうか、わしは。あぁ、幸せだったなぁ」 そんな呟きを聞いて目に涙が滲む。 「楽しかった、本当に」     
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