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「……そういう、あなたも……凄かった、ね」
蚊の鳴くような小さな声が聞こえた。それがテトラポッドの声だということに気が付くのに、ネルは若干の時間を要した。
テトラポッドは続ける。
「直接、見たわけじゃないけれど……あの……教会の、中の……焼死体……ぜんぶ、あなたがやったんでしょ……?」
「ん? うん、まあね」
ヘラヘラと笑いながら、ネルは人差し指を立てる。その指の先端に、小さな炎が渦巻き、徐々に収縮して炎の球体になった。
直後に球体はグネグネと粘土のように変形し始める。瞬く間に、炎は雀のような形に姿を変え、指先で羽ばたく。次の瞬間には小さな鯨に姿を変え、空中を泳ぎ始め、最後は苦悩するかのように頭を抱えた人間の形となった。
その炎を蠅でも潰すかのように両手でぱちん、と叩き潰し、ネルは笑う。手を広げると既に炎は消え失せていた。
「見ての通り、炎に関しては中々一級品なスキルを持っているからね。何か燃やしたいものとか人とかあるんなら、言ってくれれば協力するよ?」
「いや、別に、ない、けれど……」
テトラポッドは興味なさそうに呟く。ネルは「やれやれ」とでも言うように、肩をすくめる仕草をした。
「……ねえ、訊いても、いい……?」
「うん? うん、いいよ、何でも訊いて」
「それ、どんな……スキル、なの?」
「ああ、えっとね……あれ、なんて言ったっけ」
テトラポッドの問いに、ネルは首を傾げながらスマホを弄り始める。ステータス画面から、スキル一覧を表示して、自身の持っているスキルを確認していく。
その中のユニークスキルの欄に、そのスキルはあった。
「あ、あったあった。うーんとね――『焦土細工』ってスキル。簡単に言えばね、規模とか形状とか効果とか、まあその他諸々、色々設定して自由に使える炎を生成するってスキルなんだ。便利でしょ?」
「……へぇ」
ネルの答えに、テトラポッドが薄く目を細める。
便利?
そんな言葉で片付けていいものなのか?
例えば、炎を使うスキルは、ノーマルスキルにもいくつかある。火球を生み出して前方に飛ばすファイアボールや、手から炎を噴出させるスキル。変わったものでは、口からファイアブレスを吐きだす、なんてものもあるし、武器に炎を纏わせるエンチャントと呼ばれるスキルも存在している。
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