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「笑えればなんでもいいけれど」
「命がけならなんでもいいのに」
「殺せるならなんでもいいです」
「楽しければなんでもいいよ」
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「くそ、くそ、くそ、最悪だ、第九区なんかに来るんじゃなかった、くそ、くそ、くそ!!」
一人の男が、夕暮れの道を走っていた。
その手には大きなボストンバッグが握られており、その端からはこの世界の通貨が見え隠れしていた。
――基本的に、この世界の通貨は物質として存在している。コインや札として、現実における貨幣のように流通している。
通貨をスマートフォンの中へチャージすることも可能だが、チャージ可能な金額は、最高で30000Eまでだと言うことが明らかになっており、TPなどと較べて、大きな単位で動きがちの通貨は、大半が物質として保管されていることが多かった。
それ故に――この男のような存在が、このゲーム世界には存在している。
有り体に言えば、窃盗犯である。
――第九区は、中央都市の中でも、それほど治安の良い区域ではない。ギルドの本部が存在しておらず、また、建物などによって路地構造などが比較的複雑となっているこの地域では、プレイヤーキルや、こう言った窃盗と言った行為が比較的行われやすい。
それはつまり、悪事を働くには持って来いの場所と言うことでもあり――それ故に、第七地区に拠点を置くこの男は、本日、第九地区まで足を伸ばしたと言うわけである。
だが。
「――ちぃ!! 逃げらんねぇ!! くそったれが!!」
背後から迫りくる人の気配に、男は毒づきながら振り返った。そして、アクティブスキル・武器召喚によって、黒色の火花と共に、自身の武器である、黒色の幅の広い刀を手元へと出現させる。
逃げ切れないと判断したがゆえの、戦闘態勢。
――追跡者は、少女だった。
夕暮れの中に、長い黒髪を靡かせながら立っている。走るのに邪魔だと判断したのか、その手には何の武器も携えていなかったが――男が戦いの意思を見せるや否や――赤色の雷撃と共に、巨大な大鎌を出現させた。
――禍々しい。
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