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「――しかしながら、本当に意味が解りませんね、今回の事件は」
眼鏡をかけた、どこか神経質そうな男がそう言った。青色の背広を着て、寒空の下、手をすりあわせている。
彼は刑事である。時刻は深夜、とある事件の捜査のため、夜遅くにも関わらず外へ出ていた。
その隣りには、男の相方である、古びた茶色の背広を着た年配の男がいる。恰幅のいい男だが、犯人を追う際などに見せる俊足を、彼は知っていた。
若い男の言葉に、年配の男は眉間にシワを寄せて、鼻を鳴らす。
「全くだ。俺もこの仕事を初めて随分と経つが、今回みてぇな事件には遭遇したことがねぇ」
「――そもそもこれ、私達のような一般の警察が捜査する範疇の事件なんですかね」
「……さぁな。少なくとも俺に解るのは、これが俺たちの手に終えるような代物じゃねぇってことだ」
年配の男はそう言って、背広の胸ポケットから煙草を一本取り出した。タールの重いそれを口に挟み、取り出したライターで火をつけようとするも、中々火が灯らない。どうやらオイルが切れてしまっているようだった。
「……ちぃ。お前、火持ってるか?」
「生憎ですが、私は煙草を吸いません」
「ああそうだったな。クソ」
男は悪態を付きながら、ライターをしまう。口には火のついていない煙草だけが残った。
そのまま空を見上げて呟く。
「……消えちまった奴らの大半は、煙草も吸えねぇガキだったよな」
「ええ。まだ調査が終わっていないようなので、正確ではないですが……確か、現在確認されているところ、年齢幅は、十三歳から二十五歳まで……でしたか」
「はっ、ヘタしたらお前も消えていたところだったかもな」
「私はそろそろ三十路ですよ」
「そうだったか? 悪いな、俺からしたらまだペーペーのガキでね」
年配の男の言葉に、眼鏡の刑事は肩をすくめる。
「しかし……恐ろしいものですね。この日本で、こんな事件が起きるなんて」
「……だな。どうだ? お前はこの事件、どう考える?」
「と、言いますと?」
「つまりだな、誘拐か、自分の意思で失踪したか……あるいは事故か」
「事故でこんなことにはならないでしょう」
「そりゃそうだ。ただの物の例えだよ」
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