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少しも。
ほんの少しも、感情を乱さないサザンカに対して、少女の方こそ、動揺したように目を泳がせる。
そして、そんな隙を晒したこと自体を後悔するかのように、少女は思わず奥歯を食いしばって、それから続ける。
「――い、命乞いして、そして、私にTPと通貨を献上するなら――その命、見逃して上げても、いいわ。だから、よ」
そんな少女の言葉に。
サザンカは笑みを浮かべながら、首をかしげた。
「解らないのはそこなんだよ」
「――な、何がよ」
「いや、だってさ」
サザンカは、言った。
「――君、俺を殺すつもり、微塵もないじゃん」
「――!!」
その言葉に、少女は解りやすく、非常に解りやすく動揺した。目が泳ぐ。突きつけていた鎌の先端が震える。
「な、何を――」
「殺す気があるのか無いのかくらい、見るまでもなく解るっての。あ、もしかしてそれで本気で脅していたの? ははっ、笑える」
「わ――」
少女は。
「笑うな!!!」
叫んだ。
だが、それでも、鎌を振るうことはしない。その左手に持つ、銃器を向けることすらしない。
その瞳にあるのは、見透かされたことへの怒りと――それを凌駕する、困惑。
(――何、なんなの、こいつ)
そして、サザンカは。
「――笑うなって?」
くるりと。
「――やなこった」
少女へと、その視線を向けた。
「――あ」
その、オレンジ色に染まったサザンカの両目を見て――少女は。
「あ、あああああああ」
もはや、そこに、怒りの色も――困惑も色も、ない。
そこにあるのは、ただただ――恐怖。
怯え。
恐れ。
それはつまり――
「――だ、橙いr」
その瞬間、少女の頭は、盛大な銃声と共に、弾け飛んだ。
「……うわ、すっげぇ、一瞬で頭消えた。ははっ、笑える」
頭部を失った少女の死体が、地面に倒れる。そして、血飛沫と脳漿、皮膚片、肉片、骨片、弾けた眼球、神経、顎、砕けた歯――〝オレンジのカラーコンタクト〟――などなどが辺りに飛び散る。
近距離にいたサザンカ自身にも、その飛沫が掛かっていたが、彼はそれを拭おうともしなかった。
視線を、左の建物の、屋根へと向ける。
――そこに、本物のオレンジ色を見た。
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