87人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
屋根の上に居たのも、少女だった。黒色の長髪。半袖のワイシャツの上から、袖なしのパーカーを羽織ると言うラフな格好。下はプリーツスカートで、足元は裸足にフラットサンダル。
先程の少女よりも、少し低めの身長。
街を歩けば、どこにでも居るような、簡素な格好。
そして、その格好にとにかく似合わない――どこか、歪な違和感を覚える――対物ライフルを持っていて。
その照準が、サザンカを狙っていた。
――瞬間、発砲音。
「……殺意全開だな」
目の前に。
オレンジ色を騙る、大鎌と短機銃を持った少女が現れた時から、気がついていた。
左側の建物の上に――とんでもなく莫大な殺意を抱えた人間が、潜んでいることに。
それは言うなれば、イルカ同士が超音波でお互いの存在を確かめあい、意思疎通するような感覚。
殺意で繋がる存在認識。
だからこその――幸運。
あの偽物の少女が、本物でないことには最初から気がついていた。だから、ずっと、左上を見ていたのだから。
とにかく、殺されては目的を達成できない、と、サザンカは後ろへと走り出す。背後からは凄まじい発砲音が何発も聞こえるが、その銃弾はサザンカの周囲の地面を抉るばかりだった。
逃げながら、サザンカは考える。
――友達に、なれるかな?
背後から追ってくる、殺意の塊を感じながら、サザンカは笑みを浮かべた。
× ×
――やけに照準がぶれる。
――変だ。
――弾丸が、勝手に逸れる。
――まるで、銃弾が意思を持って、外れていくように。
――おかしい。
――なんだ、あれ。
――笑っている?
――おかしい。
――おかしい。
――可笑しい。
――…………。
――楽しい?
「Convert」
ふと、少女は、自身の口元が半月を描いているのに気がついた。人殺しの楽しみを見出してから、かれこれ二ヶ月は経過したわけだけれど、最近はそれもマンネリと言うべきか、何だかあまり楽しくなくなってきてしまっていた。
理由は明快。
あまりにも、簡単すぎた。
さっきだってそうだ。あんなにも、簡単に、楽に、考える間もなく、怯える間もなく、一瞬で、対象の頭の中身をぶち撒けてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!