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損傷自体はRPが修復するだろうが、内臓が全て一度に潰れる痛みを負ったのにもかかわらず、少年は全く苦しそうな顔をしていない。
やはり、笑みを浮かべている。
――しかしながら、先程、双刀の片割れで刺された脇腹の傷が回復していないことに気がつくと、思わず手でその部位を抑えた。白いパーカーに鮮血がじわりと浮き出ている。
そして。
「――ははっ、笑える」
やはり、笑った。
それに呼応するかのように、少女は自身の口元が笑みの形を濃くしていることに気がつく。
なんて。
なんて――楽しいのだろう。
「あはははははははははははははははははははははははははははははははっ」
心からの、笑み。果たして、これほどまでに笑ったことが、この世界に来てから有っただろうか。
こんな、命がけのやり取り。
スリル。
リスク。
なんて――快楽なのだろうか。
「Convert」
呟いて、少女の手元には禍々しい大鎌が現れる。
「ふふふ、ふふ、あはははははははっ」
笑いながら、少女は少年へと飛びかかった。鎌の刃が空気を切り裂き、凪ぐ。だが、その刃は少年には当たらない。特別、高度な回避テクニックを使ったようには見えない。
しかし、当たらない。
〝何故か当たらない〟
「はは、あはは、ふふッ」
しかし、それすらも楽しくて仕方がなかった。
少女の持つ、もう一つのユニークスキルの性質上、攻撃が当たれば大抵の相手は殺せる。
だからこそ、こうも攻撃が当たらない相手と言うのは、非常に厄介で仕方がない。だが、厄介だからこそ、楽しい。楽しくて、楽しくて、仕方がない。
「殺してやる」
自然――少女の口から、そんな、言葉が漏れた。
憎しみの言葉ではない。
恨みの言葉でもない。
これは――歓喜の言葉。
喜びの、言葉。
まさか――戦闘中に、喋ることがあるなんて。
そんなこと、思いもしなかった。人を殺そうと言う時、誰かと戦う時、喋っている余裕など、普通はない。今まで誰かを殺してきた時、一度だって口を開いたことなどなかった。
対して、少年は無口のままだった。喋らない。ただ、笑いながら、拳銃の銃口をこちらへと向ける。
発砲。
迫る弾丸を、鎌を回転させて弾く。
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