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「――あははははは!!」
無口な彼女にして珍しく、はずんだ声が喉から飛び出る。歓喜が唇と声帯を震わせるのだ。
(彼に攻撃を当てるのには、普通の方法じゃあ、多分、無理)
なら。
「リバースポイント」
少女の口が、微かにそう動く。
少年の背後には、第九区にある建物のシャッター。ここまで追い詰めた。後ろには逃げられない。だったら、ここがチャンス。
「あはっ」
哄笑と共に、鎌を振るう。首を掻き切るつもりで鎌を振るう。
ただでさえ神速の鎌。そして、それに加え――このスキル。
――これで、殺せるかもしれない。
その喜びが、背筋を震わせる。
命がけの戦いで、勝てること。
しかし、その斬撃が、少年を切り裂くことはなかった。
(――凄い、これでも当たらないなんて――どうして、解ったんだろう)
少年を捉えられなかった鎌の刃は、少年の背後にあるシャッターの壁を切り裂いた。その斬撃の亀裂が走っている。
ただし、〝少女が鎌を振るったのは逆方向に〟
アクティブスキル・リバースポイントは、『次の攻撃の当たり判定を、逆にする』と言うスキルである。
鎌を振るった方向とは逆方向に、攻撃判定が出る。少年を中央に合わせて、武器を振るえば、その効力は絶大だ。
だからこそ、壁を背後にしたその状態で、この攻撃を躱すこと、それ自体が『攻撃に当たりに行くこと』になる。
故に、『回避性能が高いこの少年に対して、このスキルは有効』であると考えたのだが――少年は、鎌が振るわれた方向に――傍目から見れば『鎌に当たりに行った』。
(リバースポイントの効果を知っていて、そうしたのかな)
だが、それにしたって、普通はとっさに武器には当たらぬよう避けてしまうものだ。
自制心が高い? いや、そんなふうには見えない。
――と、そんな風に考えていたのが隙になっていたのだろう。少女は、ほぼ無動作で放たれた拳銃の弾丸を交わしきれなかった。
肩口を弾丸が貫通する。
「――ッ」
RPで怪我は回復するとは言え、痛みは残る。
けれど――痛みは、嫌いじゃない。
リスク。
危険の実感。
命がけである証。
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