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――瞬間、少年が動いた。
射撃。発砲。飛来する銃弾を躱したその瞬間に、少女は酷い違和感を覚えた。
何かが、ずれたような感覚。
そして、それは果てしなく、下らない結末を招くことになる。
「――え」
少女は、何が起こったのかとっさに理解出来なかった。世界が一瞬スローモーションになったような気さえした。
そして、それを理解した時には、既にその身体は地面に打ち付けられていた。
――そ。
(そんな、馬鹿な)
――足が縺れて、転んだ。
とっさに身体を起こそうとしたその瞬間、眼前に何かが突きつけられる。
――アイスピックの刃。
動けない。
少しでも動いたら、そのまま眼球に刃が突き立てられ、脳が破壊されるのは目に見えていた。この距離では流石に躱せない。
――死ぬ。
間違いなく、死ぬ。
少女の頭のなかには、その単語だけが飛び交う。
そして。
それはつまり――
(――ああ、楽しかった)
彼女にとっての、最上の幸福が、そしてその結果が、そこにあると言うことだった。
笑みを浮かべる、死にかけの少女に対して。
殺しかけの少年は、また、同じように笑みを浮かべ。
すっ――と、突きつけていたアイスピックを引いた。
「……、……、……?」
その行動に、少女は首を傾げる。
どうして、殺さないのかと、疑問に思う。
少年は言う。
実に、楽しそうに。
まるで、これから始まるバラ色の未来に期待をふくらませるように、
実にいい笑顔で、言った。
「なぁ、お前、俺と友達にならない?」
硝煙と血の匂いの漂う、宵闇の中。
そんな言葉が、暗闇に響いた。
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