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真っ暗の中に、一つ、淡い色の光が浮いている。
そんなイメージが、少年の頭の中に浮かんでいた――いや、これは本当に頭の中に浮かんでいるだけのイメージなのだろうか。
これは現実ではないのか。
そう考えた瞬間に、少年の意識が覚醒した。どこか夢現だった感覚がはっきりと戻ってくる。
少年は自分の手足を確認しようとした。しかしながらそれは失敗に終わった。腕を動かそうとしても、足を動かそうとしても、そもそも少年の手足はこの場に存在していなかった。
――なんだか面白いことになっている。
それが、少年が最初に思ったことだった。
視界内には――眼球が存在しているかすら曖昧なこの状況で、その言葉にどれだけの正確性があるかは疑わしいところだが――黒色だけが存在している。
おかしい。
少なくとも、少年の知っている現実において、こんな状況はあり得ない。とは言え、ここまで覚醒した頭では、これを夢と断じることも難しかった。
(――夢を夢と自覚できる夢も、あるとは言うけれど)
とはいえ。
(――これが夢ならば、現実も夢と、大した違いはないな)
頬を抓って確認しようにも、抓るための頬も指も爪も無かった。この場所には一切の物質が存在していないのだと、少年は思った。
――ここにあるのは意識だけだ。
そう考えると、なんだか腑に落ちたような気分になった。問題が全て解決したかのような気さえした。無論のこと、それは全て錯覚でしかないのだが。
現状、問題しかない。
(――?)
不意に、少年の視界に白いものが映った。黒一色の世界に、わずかに混じる白。それは水に落ちた一滴の絵の具のように、徐々に黒に滲み――やがて、文字を形作る。
『ゲームスタート?』
少年には、その文字がそう読めた。読めた所で、今ひとつ意味は解らなかったが、疑問形と言うことは問いかけていると言うことなのだろうと考えた。
(――ゲーム、ね。なんだそれ)
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