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 バスを乗り継いでついた家は、佳乃が学生時代によく通った家。  扉には「村上」の表札。  黒い門扉を開けると、小さなバラが咲いていた。  それは通い続けていたあの時と同じ。  玄関を開ければ、あの時と同じ笑顔が迎えてくれるような、そんな錯覚までしそうになる。  だけど佳乃が呼び鈴を鳴らして出て来たのは、佳乃と同じように喪服を着た中年の女性だった。 「佳乃ちゃん、今日も大介の為にありがとうね。もうみんな来てるから、中へ入って」    佳乃と大介は、学生時代から付き合っていた。  2人とも、その時から互いに結婚するつもりでいた。  約束を交わした訳じゃない。  何かを贈られた訳でもない。  佳乃が語学勉強のため、日本から離れる事になった時「帰ってきたら、これからの事を考えよう」と二人で言っていた。  結婚という言葉が出ていなくても、その意味は二人とも同じだった。
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