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佳乃の帰国が分かった時、大介は迎えに行くと言った。
大介の優しさが、帰国して1番に大介の顔を見られるのが嬉しくて、佳乃は彼の言葉に甘えた。
だけど、それが間違いだった。
空港に向かう途中、大型トラックの起こした事故で大介は帰らぬ人となった。
事故の詳細を聞けば、大介は具合が悪そうにガードレールに寄りかかっていたらしい。
そこに、わき見運転をしていたトラックが突っ込んできたのだ。
佳乃より一足先に社会人になった大介だったが、今思えばブラック企業に勤めていたのだろう。
いつも終電ギリギリまで働き、下手をすれば始発で帰ってきて着替えてまた出社していたと、後になって佳乃は知った。
土曜は休みだから大丈夫だと言っていたが、その日も帰りが遅かったのかもしれない。
大介を殺したのは私だ。
そう思った佳乃は、大介の両親と弟に土下座をして謝罪した。
大介の家族は皆、佳乃の土下座をやめさせようとした。
家族同然の付き合いをしてくれた人達だ。
2人の気持ちも承諾していたし、大介が佳乃の事を大切に思っていたことも知っていた。
「佳乃ちゃんそんな事しないで! あなただって私達と同じなんだから!」
泣きじゃくりながら佳乃を抱きしめる大介の母親の肩越しに、歯をくいしばる大介の父親と、後ろを向いて泣いている弟が見えた。
みんな私を責めてくれれば、もっと気が楽になれたのに。
体の芯まで凍り付いたような感覚の中で、そんな事も考えた。
あの時、私が甘えていなければ。私が断っていれば。すぐに大介に会いたいと思わなければ。
……私と付き合っていなければ。
1番に会いたいと願ったのに、その瞳は2度と佳乃を見つめてはくれない。
その事実が受け止められないからなのか、いくら悲しくても、辛くても、冷たくなった大介を見ても、涙が出なくなった。
もしかしたら、大介を殺した私には泣く資格などないのだと、彼が泣くことを禁じてしまったのかもしれない。
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