漁師の闇バイト

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 僕とO君は居酒屋を出ると、さびれた田舎の歓楽街を千鳥足で抜け出し、港湾沿いにある倉庫群の前を歩きました。真っ黒な海からは波の音だけが聞こえていました。 「こんなひとけのない暗い所で何するんだ?」僕は胸騒ぎがしていました。 「最近は不漁続きで、このへんの漁業関係者は大変なんだよ」 「そのわりにお前は羽振りがいいな。高い酒をおごってくれるし」 「漁師には裏のバイトがあるんだよ」そう言うと、O君は倉庫の前で立ち止まりました。 「裏のバイト?」 「さっきも言ったけど、あまり探らないでくれ。50万という金額は肉体労働に対する対価というよりは、口止め料みたいなものなんだ」  O君は慣れた手つきで倉庫の鍵を開けると、僕を中に誘い込みました。部分的に照明を点けると、壁に掛けられている防寒具を着るように指図され、サイズの合わない生臭いそれを僕は言われるがまま着ました。  倉庫の中には更に扉があり、O君はさっきとは違う鍵でそこを開けるのでした。中からは白い冷気があふれ出し、足元が見えなくなるほどでした。 「冷凍庫?」僕は腕を組み、背中を丸めました。 「ここは俺が個人的に借りている冷凍庫だ。この中にある箱を一緒に運び出してほしい」  僕は体を震わせながら中に入りました。中は僕の実家よりも広く、カチカチに凍った魚が入っていると思われる白い発泡スチロールが積み上げられていました。まさかこれを運ぶだけで50万円もくれるわけがないよなと思いながら奥に進むと、O君は巨大な木の箱を引っ張り出してくるのでした。 「それを運べばいいの?」僕は両手に息を吹きかけながら訊きました。 「これを船まで一緒に運んでほしい」  嫌な予感はだいぶ前からしていましたが、徐々に確信に変わっていきました。箱のサイズがそれを後押ししました。人間がすっぽりと入れるくらいのサイズなんです。  僕とO君はそれを2台の台車に乗せると、押しながら倉庫を出ました。誰ともすれ違うことなく港を移動すること5分位だったでしょうか、船の前に到着すると、O君が箱の前部、僕が後部を持ち上げて、船内に運び入れました。 「よし、出港するぞ」O君は船のエンジンを入れました。 「酒気帯びとかないの?」 「構わないよ。飲まないとできない仕事だ」
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