君からの贈り物

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は?何言ってんだ?いや、でも。 「とりあえず、俺のとこ来たらいいけど。」 「ねぇ、律。律の気持ちは変わってないって思っていいの?」 「それ、ここで話すことか?いいから家に来いって。話はそれから、な?」 「仕方ないなぁ。」 それはこっちの台詞だ。勝手に実家出て来て引っ越し先も決まってないのに、自分の荷物全部持って来やがって。 とりあえずでも、一緒に住めるとなれば嬉しいに決まってるけど、いや、そういうことじゃなくて。あぁ、やっぱり俺は混乱しているんだ。 急いで扇の荷物を殆ど持って、扇の手を引いてマンションまで帰って来た。部屋の中に扇を入れて、寝室でアルバムを広げたまま飛び出して行ったことを思い出す。 扇の荷物をリビングに置いて、慌てて寝室へと行くと、扇が先にアルバムを手にしていた。 「律、やっと見たんだね。」 「───うん。」 「この日ね、もう律は僕のことなんて好きじゃないのかもって思ったんだ。だって、どれだけ待っても律は来なかったから。まさかアルバムを開いてないなんてね。」 「───ごめん。」 俺はただ、頷いたり謝ったりすることしか出来なくて、帰ってきてすぐにアルバムを確認したことを知られ、恥ずかしい思いが沸き上がる。 この日───卒業式の1年後。 「全部アルバム見た?」 「見たよ。」 「これも読んだよね?あの日以来、律の顔を見れなくて、ずっと話せなかったこと後悔してた。卒業式でもう逢えなくなるかもって思ったら、悲しくなって。それでも話しかける勇気も出なくて。だから、このアルバムに託したんだ。」 懐かしそうにアルバムを開きながら、それでも少し恥ずかしそうにも見える扇は、俺からしたらその全部が愛おしく感じてしまう。今すぐに抱きしめたい。そんな衝動を抑え込んで、話をしなければと唇を噛み締めた。 「律が来なかった日から何日か経ったある日、もしかしたらアルバムを見てないかもってふと思った。だから、自分で直接確かめるまでは待っていようって思ったんだ。ねぇ、律。」 アルバムを棚に置いて扇は俺に向き直った。その眼が真っ直ぐで、俺は逸らすことなんて出来なくて。扇に引き込まれそうになるのをどうにか保っていることしか出来ない。
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