本屋さんとインチキ

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「ダメですよ。これがないとあっし共は利子の取り立てができませんので。残り二十万を返していただけたら渡しますが」 「そう言われましてもねえ……実物を見せて貰えないと私も肩代わりなんて出来ませんよ。借用書なんていくらでも偽装出来ますし」 「お嬢さん、馬鹿なことは……」 「正規のモノだと言うのならこの溶液をつければわかるわ。改ざんしていたらインクが溶けるから」 「ホウ……だが本当にこの液体にそんな効果があるかがあっしからすると眉唾ですぜ」 「だったら実演しましょう。まずこの紙にサインして、次にこのスキャナを使って複製する。そして双方にこの液体をつけるとこうなるわ」  読子の実演で、確かにコピーした紙のインクのみ文字が溶けた。  この溶液はコピー機のインクやトナーのみを溶かして、ボールペンや万年筆のインクはそのままにする性質がある。  目の前で見せられたマムシはしぶしぶ読子に従って借用書を取り出すと、それのサインに溶液をつけた。  種を見せられれば信用すると言うよりも安心したという方がマムシには正しい。目の前の女が考えそうなちゃちなトリックで見抜けるような偽装ではないからだ。 「ホウラ、これで信用してもらえやしたかね」 「確かに本物のようね。これは疑った事への詫びも含めたお金よ、これと引き替えでどうかしら」 「たしかに」     
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