5

2/3
前へ
/39ページ
次へ
絵莉子の寮の壁は防音設備がしっかりとなされている。しかしドアはそうではなかった。寮の廊下にはドアの隙間から漏れる話し声やドライヤーの音が響いた。 絵莉子はそれを気にしたことはあまりなかった。しかし、自分の部屋から声が聞こえるとなると話は別であった。 薫が寮を出発する日の夜、バイトから帰ってきた絵莉子は珍しく自分の部屋から漏れ出る音を聞いた。 聞こえてきたのは、薫の話し声であった。誰かと電話をしているらしい。 「明日は昼ごろに駅に着く予定…うん…帰省するのは早いけど、同じ部屋の子とうまくいってないとかは無いから安心して。いっぱい話しかけてもらって、良くしてもらった」 自分の話題が出ている事に気付き、絵莉子の心拍数は跳ね上がった。それと同時に、薫の話を盗み聞きしていることに罪悪感が起こり、一旦その場を去ろうとした。 しかし、次に聞こえてきた言葉に耳を疑った。 「…そのことはまだ、同室の子にもばれてないから大丈夫。…誰にも言うつもりはない」 聞いてはいけない。そう思いながらも、絵莉子はそこから動けなかった。 「うん、それじゃ、また明日」 薫の話し声が聞こえなくなる。それと同時に、絵莉子はその場を駆け出した。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加