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次の日の朝起きると、もう薫は寮を出て行っていた。
自分1人しかいない部屋がやけに静かに感じられ、心に迫る。昨日までそこにいたのが嘘のようだ。
(なんで感傷的になってるの、私。別に死ぬわけじゃないのに。薫ちゃんは一旦帰っただけだよ、秘密を隠さなくていいように…)
絵莉子は、部屋に1人でいるたびに薫について思い出していた。照れた顔、困った顔、そして薫の秘密について。そのたびに頭を振り、薫のことを追い払おうとした。
(ダメだダメだ。考えすぎちゃダメだ。秘密があるらしいから気になってるだけなのに。このままじゃ…美穂やかなえ先輩の時みたいになっちゃう)
8月はあっというまに過ぎ去り、ようやく絵莉子も実家に帰ることができた。
クーラーの効いたリビングでカルピスを飲みながら、母と一緒にテレビを眺める。夏休みだからこそできる至福のひと時である。
絵莉子はふと思い出して、薫のことについて母に尋ねた。
「ねぇ、前同じ寮の子になんか秘密があるみたいって言ったでしょ。秘密って…なんなのかなぁ」
「秘密…痔、とかじゃない?」
絵莉子は思わずカルピスを吹き出しそうになる。
「そんな…もっと真剣な感じだったよ!」
「まあ生きてりゃ誰にでも秘密なんてあるでしょ。秘密を持ちながら、ちょうどいい距離感を探っていく。全部が全部をわかりあおうとしなくたっていいのよ」
「うーん…そうなのかな」
「それに、絵莉子だって、全部のことを知ってもらいたいわけじゃないでしょ」
「それは…そうだよなぁ」
答えながら、絵莉子は自分の秘密について思いを巡らせた。確かに絵莉子にも知ってもらいたくないことはある。目の前にいる母にすら知られたくないことが…
(女の子が好き、なんてバレたら、ね)
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