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学園祭当日、絵莉子は野外ライブでもラーメンの屋台でも薫を探した。しかし、薫が姿を見せることはなかった。もとから望みは持っていなかったが、それでも薫に似た人影を見るたびに、心が揺れた。 (来てくれる、って約束もなくなっちゃったか…。でも、そりゃそうだよね…) 学園祭が終了し、片付けも全て終わった後に、同じバンドの泰生が絵莉子に声を掛けてきた。 「なぁ、この後ヒマ? 腹減ったし、飯でも行かね?」 絵莉子は一瞬躊躇った。他のサークルのメンバーも一緒に行くのだろうか、と思ったが、どうやらそういう流れではないらしい。しかも、同じバンドの女子が意味深長な笑みを浮かべながらこちらを見ている。 絵莉子は、ここ数日やたらと泰生と2人きりになる機会が多いのに気付いていた。しかも、ラーメン屋台の休憩を取らされるのは、なぜか泰生と同じタイミングである。鈍感な絵莉子でも薄々勘付くほど、サークルのメンバー達は絵莉子と泰生をくっつけようとしていた。 そのような状況を知りながらも、絵莉子は自然と首を縦に振っていた。 「うん、行こう。私もお腹すいちゃった」
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