10

3/4
前へ
/39ページ
次へ
「うん…卵巣と精巣、が両方あるんだよね」 「そう。インターネットか何かで調べたの?」 「うん…」 薫の表情からは感情は読み取れない。絵莉子は服の裾を握りしめながら、思い切って薫に尋ねた。 「その…薫ちゃんの心の方はどうなの? 女の子なのか、男の子なのか…」 「わからない」 絵莉子は、思わず戸惑いを表情に出してしまった。 「ほとんどは女の子だと思う…けど、たまに自分でわからなくなるときがある」 相槌を打てばいいのか、それとも何か言葉を掛ければいいのか。絵莉子が考えあぐねているうちに、薫は言葉を続けた。 「こんなのと相部屋になって、対応に困るだろうし嫌だと思う。秘密を知られることになったのも、私の不注意と詰めの甘さのせい。それは申し訳ないと思ってる。でも…誰かに話されるぐらいなら、殺してでも止める…それは変わらないから」 そう言って、話は終わりだと言わんばかりに背を向けた。その背を見ていると、絵莉子の目には涙が滲んできた。絵莉子が秘密を暴いてしまったことを気にさせないよう気遣いながらも、自分の感情を打ち明けることはない、そんな薫が恨めしかった。 (必要最低限の説明だけして…私が体を見ちゃったのも自分のせいだって言って…そうやって、1人で背負っちゃうんだね…) 絵莉子が立ち尽くしていると、薫は背を向けたまま、言葉を付け加えた。 「お金が無いから寮に来たけど…お金がたまったらここを出て一人暮らしするから、それまで辛抱してくれないかな」 その言葉を聞き、絵莉子は弾かれたように俯いていた顔を上げた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加