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年末になり、寮内の学生たちは久し振りの帰省に浮き足立っていた。それとは対照的に、絵莉子は沈んだ気分になっていた。 (薫ちゃん、正月休みが終わってもここに帰ってくるのかな…戻ってこなかったらどうしよう…) クリスマスの少し前、絵莉子のサークルでは忘年会が行われた。部員数が多いため、居酒屋を貸し切っての盛大な会となった。 絵莉子と同じテーブルには同学年の友人たちが座っていた。そして絵莉子の隣は泰生であった。絵莉子が泰生の告白を断ったにも関わらず、周囲の絵莉子と泰生をくっつけようとする策略はまだ続いていた。 同じテーブルの部員たちは、とあるぼんやりした部員に意外なことに彼女がいる、しかも結構美人、という話で盛り上がっていた。絵莉子も生返事をしていたが、一緒に盛り上がる気分にはなれなかった。なぜなら、その日薫が荷物をまとめて帰省の支度をしているのを見たからであった。 ある部員が、『結構美人な彼女』の写真を出し、それを見るために部員たちが顔を寄せ合ったタイミングで、泰生は絵莉子の腕を軽くつついた。 「なんか顔疲れてるけど…大丈夫か? 酔ってはないよな、まだ飲めないもんな」 泰生は鋭い、と絵莉子は思う。絵莉子に好意を抱いているから、というだけではなく、いつも周囲をよく見て、気遣いを欠かさない。そんな泰生になら、今の悩みを打ち明けてもいい気がした。もちろん、すべてという訳にはいかないが。
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