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絵莉子はその日の授業に全て出席し(ほとんど内容は頭に入ってこなかったが)、それから寮に帰った。薫はまだ帰ってきていない。 とりあえず少し寝よう、そう思って絵莉子は部屋着に着替え、布団に体を潜り込ませた。心なしか症状がひどくなっている気がする。頭痛と気分の悪さを感じながら、絵莉子はうつらうつらと眠りに入った。 絵莉子はシャワーの音で目が覚めた。どうやら薫はすでに帰ってきているらしい。 そういえば、と絵莉子はあることを思い出した。薫がシャワーを使っている場面に遭遇するのは、これが2回目かも知れない。同じ部屋に暮らして一年近くになるというのに、不思議なことだと感じた。絵莉子が薫のシャワーの音を聞くのは、絵莉子がイレギュラーで早く帰ってきたときだけだ。 絵莉子は薫の秘密を知ってしまった夜のことを思い出し、苦い気持ちになった。 (もし、知らないままだったら…今でも仲良くできたのかな) しかし、心のどこかでそれを否定していた。 (でも、何も知らないのも嫌だ。薫ちゃんがどんな人で、どんなふうに生きてきたのかを知りたい。知った上で…) そこからどうなるのか、と絵莉子は自問した。たとえお互いを知り、友人関係になれたとしても、絵莉子が薫に向ける感情は友情ではない。そして薫が絵莉子に恋愛感情を向けるとは思えなかった。 答えの出ない問いを繰り返していると、体調不良が悪化したような気がした。ちょうどその時、薫がシャワーから出てくる音がした。絵莉子は目を閉じ、じっとした。 (やっぱり今日はもう寝ちゃおう。食欲はないから晩ご飯は食べないし、シャワーも明日の朝でいいや) そう思いながら目を閉じていると、まどろみのなかに引き摺り込まれていく。 絵莉子ちゃん、と声が聞こえた気がしたが、返事をする気力はなかった。
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