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真夜中に絵莉子は、強烈な吐き気で目を覚ました。まだ覚醒しきっていないが、これは限界だと直感でわかる。絵莉子は滑り落ちるようにベッドから降り、トイレに駆け込んだ。部屋の電気をつけなかった上に急いでいたため、途中で椅子とゴミ箱を倒してしまった。 トイレでひとしきり吐き終えると、控えめなノックの音が聞こえてきた。起こしてしまった、と頭の片隅では考えたが、体の怠さと辛さでそれ以上のことは考えられなかった。 水を流し、口を濯いでからトイレを出ると、扉の前で待っていた薫と目が合った。部屋は豆電球の薄明かりに照らされている。起きてきた薫がつけたのだろう。 「大丈夫? 飲めそうだったら飲んで」 絵莉子はこくりと頷き、水を受け取って飲んだ。急激な体調の変化についていけず、言葉を発する元気もなかった。 飲み終えると、薫がひょいとコップを受け取る。絵莉子は「ごめんね」と小さく謝り、そのまま覚束ない足取りで倒してしまったゴミ箱の方に向かった。 ゴミ箱の中身は無残にぶちまけられている。片付けようとしゃがみ込むと、背後から両肩を掴まれ、制止された。 「しなくていい。私がやっておくから、もう寝て」 そのままベッドへと連れられる。薫は「また吐きそうになったとき、こっちの方がいいから」と、何の躊躇いもなく絵莉子を自分のベッドに寝かせた。絵莉子は申し訳ない気分になったが、それ以上に早く横になりたい気持ちの方が強かった。 布団にくるまっているのに悪寒がする。ミノムシのような格好で震えていると、頭上から「寒い?」と問う声が聞こえてきた。絵莉子はその格好のままこくこくと頷いた。薫は無言で部屋の暖房をつけた。 「私は上で寝るから、具合が悪くなったら起こして」 聞こえてくる声からはいつも通り感情が読み取りにくかったが、微かに心配が滲んでいた。
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