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熱のせいでろくに眠れない夜を過ごした後に、朝が訪れた。 絵莉子が起きた時には、薫はすでに部屋にいなかった。早朝からバイトをしていると以前言っていたので、そのためだろうと絵莉子は思った。 絵莉子が昨晩倒したゴミ箱は、跡形もなくきれいに片付けられていた。 (ゴミ箱だけじゃない…昨日いろいろしてもらったのに、まだお礼言えてないな… っていうか私、薫ちゃんの布団で寝てた!?) まだ本調子ではなかったが、そう思い至るまでには絵莉子の思考力は戻っていた。 病院に行くと、ただの風邪だという診断が下された。点滴を打たれて帰される頃には、幾分か調子も良くなっていた。 寮に帰ってからしばらく薫のベッドで眠っていると(自分のベッドを使うか少し迷ったが、しばらくは薫の厚意に甘えることにした)授業を終えた薫が帰ってきた。何やら色々と入ったレジ袋を腕に提げている。 「おかえり」 「ただいま」 ふぅ、と溜息をつきながら薫は袋を机の上に置いた。 「病院行ったらただの風邪だって。周りで流行ってたからそうかなとは思ってたけど、インフルとかノロとかじゃなかったみたい」 「そう、良かった」 言葉は少なかったが、薫の表情は安堵のためか少し綻んだ。 「昨日はいろいろありがとう。その…心配かけてごめんね」 「それは別にいいよ。食欲はある? いろいろ買ってきたけど」 薫が袋の中身を机に並べていった。ゼリーやインスタントのお粥など、病人でも食べられそうなものが揃っている。 「え、うそ、ありがとう! お金は…」 「別にいい」 「それは悪いよ!」 「いいって。…その代わり、もし私が風邪引いたら、その時はよろしくってことで」 薫は少し唇の端を上げた。それは、絵莉子が久しぶりに見た薫の笑顔だった。 (うう、薫ちゃんが久々に優しい…しかもすごく優しい…こんなに優しくしてもらえるなら、風邪を引いたのも悪くはなかったかも…)
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