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「小さい時から、自分の体のことは隠して生きてきたの。自分の体が人とは違うことは、お母さんから聞かされて知っていた。…周りの子から変な目で見られることも多かった」 薫が自身の過去について告白するのを、絵莉子はどぎまぎしながら聞いていた。 「学年が上がるにつれて、周りの目に同情も混じってきて…それに気づくたびに突っ撥ねてた。普通の体で生きてきた人に何がわかるんだ、って。そうして、隠して虚勢を張って、人と関わらないまま生きてきたから、人の痛みもわからない人間になったのかもね」 薫が自嘲的に呟く。絵莉子はとっさに否定していた。 「そんなことない! 薫ちゃんは誰よりも優しいって、そう思うよ!」 薫は、思ってもみなかったことを言われた、というような表情をした。しかし絵莉子は、薫が自分を守るために、優しさをも厳しい仮面の中に封じ込めるしかなかったことに、胸が締め付けられる思いであった。 「ありがとう…絵莉子ちゃんが同じ部屋で、本当によかったって思うよ」 薫が浮かべた笑みは、とても儚かった。 「絵莉子ちゃんが初めてなんだ、こんなに一緒に笑って、こんなに一緒に過ごした人。絵莉子ちゃんにとっては、私はたくさんいる知り合いのうちの1人かも知れないけど、私にとっては初めての人だよ」 今度は絵莉子が驚く番であった。薫が自分のことをそんなふうに思っているとは。そして、絵莉子は薫が思っているよりもずっと、薫のことが大事である。 「たくさんいるうちの1人なんかじゃない。私は、薫ちゃんのことが大好きだよ」 絵莉子はたまらずに薫の体を抱き寄せた。薫はおずおずと絵莉子を抱き返した。 「絵莉子ちゃんも、私のことが特別だと思ってくれてるって…そう思ってもいい?」 絵莉子は、返事の代わりにさらに強く薫を抱きしめた。
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