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「絵莉子ちゃんはさ、彼氏いるの?」 大学の食堂で、絵莉子と同じ心理学部の友人と昼食を摂っている時、不意に尋ねられた。 「いないいない、だっていそうに見えないでしょ」 「えーっ、絵莉子ちゃんいそうなのにな、ゆるふわ系でかわいいし」 「ゆるくないっ! これでも私、長女ですっ!」 「長女なの!? 意外だね」 「意外なんて言わないでよっ」 他愛のないやり取りを続けながらも、絵莉子は彼氏の話から話題を逸らすことができてほっとしていた。彼氏を作ろうにも、恋愛感情が男性に向かないのだと、出会って日が浅い友人に打ち明けられる話ではない。 (こうやって…私は隠して、ごまかして、生きていくんだろうな) 同居人の薫とは、滅多に話すことがなかった。そもそも顔を合わせるタイミングがない。薫は就寝するのも起床するのも早かった。絵莉子が起きると薫はすでにどこかへ行っており、絵莉子がバイトやサークルなどから帰ると、すでにベッドのカーテンを引いていた。時折ベッドから物音が聞こえてくるので、ベッドで横になってはいるが目は覚めているのかも知れないが。 たまに顔を合わせることはあるが、その時もあまり話さない。絵莉子は話しかけようと試みるが、返ってくる答えはいつも短いものであった。 しかし、部屋の掃除はこまめにしているようだった。絵莉子が放ったらかしにしていたペットボトルやお菓子のゴミなどを、絵莉子がいない時に捨ててくれていた事もある。絵莉子が礼を述べた時の返事は素っ気ないものであったが。 また、薫が寝ている時間帯に部屋の電気をつけたり、シャワーを浴びたりすることに対しても文句を言わなかった。絵莉子はそのことについて一度謝ったことがあるが、 「全然気にせずに寝てたから、そっちも気にしないで…私も気を遣わせてごめん」 という返事が返ってきた。絵莉子はその時、この子も人に謝るということをするのか、と驚いたのであった。
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