3

2/2
前へ
/39ページ
次へ
絵莉子は、率直に言うとこの無愛想な同居人を怖いと思うところもあった。しかし、ただの冷たい人間ではなく、妙に律儀なところもあるこの人物に、少し興味を抱いていた。そしてまるで希少動物のように、その生態を観察していたのであった。 生態といっても、生活リズムが全く違うのであるから行動を監視することはできない。そこでまず目をつけたのは、彼女の身の回りのものであった。 まずは、彼女の机の上である。パソコンに筆記用具に数冊かの教科書。これは大学生としては普通であろう。しかしなぜかダンベルが載っている。 (薫ちゃん、けっこう筋肉質だったもんなぁ、筋トレでもしてるのかなぁ) そして、彼女の本棚は、入寮したときから本でいっぱいであった。本のタイトルはほぼ外国文学であったが、隅の方に最近の作家の本もあった。 (作家さんの名前がどれもわかんない…あ、でもヘルマン・ヘッセはわかる! ヤママユガ!) 本棚の中のほとんどの本が、絵莉子が読んだことはおろか作家の名前も知っているか怪しいものであったが、1つだけ読んだことのあるものがあった。それは若い女性の間で流行し、映画化もされた恋愛小説「ワスレナグサ」であった。 (薫ちゃんもこういうの好きなんだ…なんか意外だなぁ) またある日、休日の昼間に珍しく部屋にいると思ったら(薫はたいてい休日もどこかへ行っていた)、ベランダに立って外を眺めていることがあった。昼までの睡眠を満喫していた絵莉子は、起きてくるなりその光景を見て、寝ぼけ眼をしばたいたのであった。ベランダから戻ってきた薫にどうしたのかと問うと、少し決まりが悪そうな顔で 「鳥がいた…から、見てた」 と答え、どこかに行ってしまったのであった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加