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薫とまともに会話をするようになってからしばらくして、絵莉子はかねてから気になっていたことを聞いてみた。 「ねぇ、薫ちゃんの本棚に『ワスレナグサ』あるよね、薫ちゃんって恋愛小説好きなの?」 薫は一瞬意表を突かれたような表情になった。 「好き…ってわけじゃないけど、逆かな。あんまり読んだことないジャンルだから、ちょっと気になって」 「むー、やっぱりそうか。薫ちゃんがベタ甘の恋愛小説好きとかだったら意外で面白かったのに」 いつもなら、絵莉子のこのような言葉に困ったような笑顔を浮かべる薫だったが、その時はなぜか真剣な表情で絵莉子をじっと見つめた。 「絵莉子ちゃんは、この小説みたいな恋愛したいって思う?」 「えっどうしたの急に。まあ最終的に好きな人と結ばれてハッピーエンドってうらやましいけど」 「そう…」 それから薫は少し考え込むような表情になった後に、再び質問をした。 「恋をするって、やっぱり幸せ?」 「な、なんでそんなことを?」 たじろぐ絵莉子に対し、薫はどこまでも真剣であった。 「私、恋ってしたことないから。気になって」 「そうなの? たまにいるよねそういう人」 「そう。で、幸せ? そうじゃない?」 困惑しながらも、絵莉子はこれまで恋をした経験について思い返した。美穂のこと。かなえのこと。2つとも確かに「恋」ではあったが、おそらく一般的なものとは離れているので参考になるだろうか。 「幸せ…だったよ。その人が近くにいるだけでドキドキしたし、話せるだけで1日が楽しかった…な、何言ってるんだろうね、私」 絵莉子の言葉を聞き、薫はしばらく黙っていたが、やがて呟くように言った。 「私も、いつか恋ができるのかな…」 絵莉子は一瞬反応ができなかった。薫の、質問ともとれない言葉にどう返していいかわからなかったのだ。 「でっ、できるよ! 薫ちゃんきれいだし、スタイルいいし、こんな人放っておけないよ!」 それを聞き、薫はいつもの困ったような笑顔を浮かべた。 「そんなこと言ってくれるの、絵莉子ちゃんだけだよ」 (なんでだろう…さっきの薫ちゃん、すごく寂しそうに見えた)
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