彼の心の中

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   ……だとしたら男の人って、なんて不器用でかわいらしい生き物なんだろう。  あたしたち女は、息をするようにすべてを飲み込んでしまうのに。  心の中にどんなものがあろうと、それを顔に出さないようにできるのに。  嘘をつくのも真実をにおわせるのも、それを相手が望むかどうかだ。  なんて、哲也に未練なんてかけらもないあたしが悪い女ぶったって、たかが知れてるんだけど。  未練があるとしたら──長年、親友をやってくれていた男の顔がよぎる。  ……そう、こういうのが秘密だ。  選ばなかったものは、選ばなかった瞬間から大きな意味を持ち始める。  選んでいるのは、賢治郎の腕。  けれど冴島のそれに興味がないといえば嘘になる。 .
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