彼の心の中

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   だから、女は疑うんだろう。  きっと目の前の彼にもそうして秘めた想いがあるに違いない、と。  ばか正直な賢治郎に気づき、急に胸が切なく啼き出す。  賢治郎に手を伸ばそうとした瞬間、彼は「あいつ」と小さく声を上げた。  店先に並んだ花々を片付けに、エプロン姿の女性が見える。  背が高くて細くて、ショートカットなものだから一瞬性別がわからなかった。  けれどすらりと伸びたデニムのしなやかな脚と腰つきで、女性だと見分けがつく。 「……きれいな人ね」  考えるより先に声が出ていた。 「きれいかどうかはわからないけど……」  賢治郎がそのあとに続けたい言葉は、聞かなくてもわかる。 .
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