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彼女は唯一の女だと、彼がそう言ったのだ。
そのときのことを思い出すと、ちくりと胸が痛くなる。
しかたのないことだとわかってはいたけれど、どうしても歯がゆい気持ちになってしまう。
「……うん、わからないな。あいつが生まれたときからずっと、見てるから」
「そういうもの?」
「うん。あんただって、親がきれいかどうかはわからないだろ。家族ってそういうものだと思う」
「親が……」
記憶の中をさらってみるけれど、なるほど確かに美醜の区別はつかなかった。
そういうのはたぶん、子どものころのほうがよくわかっていたんじゃないだろうか。
「そうだね。そういうもの……かも」
どこか他人事のようにつぶやくと、賢治郎がはたとあたしを見る。
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