204人が本棚に入れています
本棚に追加
「気が済んだか」
「え?」
「見てみたいって、あんたが言った」
「そう、だね」
ハンドルを握っていた賢治郎の手が伸びてきて、一瞬身をすくめた。
「なあに」
「いや……目が腫れてる」
「え、どうして」
「妬いたの?」
ストレートに訊いてくる賢治郎の目に、うぬぼれの影は微塵も見えなかった気がする。
言われてから、さっきの歯がゆさが胃までどしんと落ちてきた。
熱くて苦々しいその歯がゆさの成れの果ては、なるほどたしかに嫉妬のかたちをしている。
「たぶん……」
「目が赤いから。女の目が赤いときは、怒ってるときだ」
すまなさそうに、賢治郎は破顔した。
つくづく、あたしたちの関係は理不尽だと思う。
.
最初のコメントを投稿しよう!