彼の心の中

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  「……ねえ、質問なんだけど」 「ん?」 「あなたの妹さんがどんな人か見てみたい、って言ったら──怒る?」  ──宮沢馨子、さん。  この世に散らばるありとあらゆる不確かなものを集めたものが、あたしにとっては馨子さんだと思う。  運転席に座る、この国語教師の底知れなさを見るにつけ、あたしにもその素養が伝染してきた気がしてしまう。  何度も何度も賢治郎と寝るうちに、あたしの喜怒哀楽は均されて、ちょっとやそっとじゃもう乱れることなんてできないように思えるのだ。 「案外、遅かったな。もっと早く言い出すかと思った」  ……ほら。 .
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