第4章 存在意義

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「え、なにして」 「黙ってろ!」 細く破いた濃紺の切れ端を、ぐいぐいと私の指に巻きつける。 「………っ、痛い……」 「うるせぇ、阿呆」 ………馬鹿の次は阿呆ですか、そうですか。 もう口を開くまいと、ぎゅっと唇を噛み締めて痛みに耐える。 そんな私の頬に、歳三の艶やかな髪がさらりと当たって。 見上げれば、その端整な瞳が、強く、真剣みを帯びていた。 その漆黒の双眸に。 どうしてか、心が小さくきゅうと鳴る。 その事実に、ごくりと喉が鳴った。 「……………っ」 「我慢しろ」 痛みのせいだと勘違いしたのか、歳三がぶっきらぼうに声に出す。 そんな彼は、きゅっと端をしばって、ふうとため息を零す。 「……ありがと」 真剣な瞳を見てしまったからには、何だか歳三のことを直視できなくて。 手当てしてくれた指を見て、お礼を言った。 そんな私に気付いているのかいないのか。 それは分らないけれど、同じくそっぽを向いた歳三は、ぼそりと言葉を落とす。 「お前なぁ…………」 そこで言葉を切って、はーっと大きなため息をついた。 「……何」 「………ほんと、何してんだよ………」 「え、………怪我」 「そんなんは分ってんだよ、そうじゃねぇよ」 「………どういうこと?」 聞き返せば、いつの間にかじっと此方を見る歳三とぴたり、目があった。
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