第3章 試験

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「…どうしたの」 「…………何でも、ねぇよ」 冷たく無表情でそっと瞳を伏せた歳三に、ぐ、と胸が掴まれた気がした。 その場に流れる沈黙に気圧され、俯いて黙っていれば、目の前に似合った濃紺の着流しが、ゆるりと動く。 「………俺、稽古みてくる。おめぇは戻ってくるまでこの部屋の掃除でもしてろ」 襖が閉まる寸前、投げつけられた言葉に、きゅっと唇を噛み締めた。 どうして、そんなに突き放すような物言いをするの。 優しいのか、冷たいのか、どちらかにして欲しいと思うのはよくばりだろうか。 そんな私でも、タン、と閉められた襖の向こうに、物憂げな表情の貴方がいるのが簡単に想像できてしまう。 何故だかは、わからないけれど。 その想像した貴方に、ひどく切なく心が音をたてた。 突き放されてしまったからには、とても追いかけることなど出来なくて、ゆるりと目線を下に落とす。 その視線に、未だ敷きっぱなしの布団が入った。 それを見て、寝ていた歳三の呟いた言葉を思い出す。
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