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――――――璃桜。
そう、確かに、彼は私の名を呼んだ。
その声に、何処か僅かに既視感を覚えてしまう。
いいや。
声だけでなく、瞳も、髪も、彼の全てが私の記憶に訴えかけて。
どうしてかなんて、全く分らない。
けれど、彼の――――歳三の笑った顔が見たいと思う私がいた。
それなのに。
……あんなにも切なさを湛えた顔をさせてしまう。
そんな事を考えていれば、畳む気になれなくて、そのままごろん、と布団に転がった。
ばふん、と枕に顔を埋めれば、さらさらと余韻を描くように私の身体を追いかける、薄茶の髪。
つとそこに目をやれば、視界の端に歳三がくれた髪紐が映る。
逢ってまだ二日目なのに、どうしてこんなに心が乱されるのだろう。
まるで、歳三にそっけなくされることを厭うような、己の胸の痛み。
胸に手を当てて、髪紐をじっと見ていれば、その深紅が、じわりと滲む。
そこで漸く、泣きそうになっている己に気が付いた。
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