第3章 試験

71/78

299人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
というか…………言いたくない。 言ってしまったら、その気持ちに嘘がつけなくなって、後戻りできないような気がするから。 「そうそう! 総司のやつがそう言いだしたら、平助も璃桜大丈夫かな、なんて言い出しやがってよ、今に至るってわけだ」 「そうなんだ……」 私のことを心配して、此処までこそこそとやってきてくれたそうちゃんと平ちゃん。 左之さんだって、口では二人のせいにしているけれど、きっと心配してくれたに違いない。 何だか、嬉しい。 心がほっと温まるような、そんな優しい思いが満ちてゆく。 そう思ったら、自分でも自然と口から言葉が出ていた。 「あの」 声をかければ、三人の瞳が此方を向く。 「わざわざ、あ、ありがとう………」 そうちゃんは別としても、あって間もない私なんかのことを気にかけてくれる人がいる。 それだけで、存在を認められたような。 此処に、この場所に、―――この時代に、居てもいいということが、分った。 そう気が付けば、思い悩んでいた自分がとてもちっぽけに感じる。
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

299人が本棚に入れています
本棚に追加