第3章 試験

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「璃桜さん、歳さんは見かけよりもずっと不器用なんだよ」 「……へ?」 何を言い出したのかと思って源さんの方を向けば、何処か遠い所を見るように顔を真っ直ぐ前に向けていた。 「それはもう、本当に。総司や原田くんの方が、よっぽど器用だよ」 「嘘……」 あの器用人間が? 後々鬼の副長ともいわれる人が? 「勿論、彼が振るう采配は、全くもってこの壬生浪士組の誰も勝てないだろうね。けれど、こと人間関係に関しては、本当に不器用なんだ」 「……そう、なんですか」 試衛館時代の、歳三のことだろうか。 源さんが、いつの歳三を見てるのか分らないけれど。 そんなの。 …………理解できない、とそう思ってしまった。 「台所が遠いのが何とかなれば、八木邸は最高の居場所だと思うよ」 その言葉にはっと我に返れば、もう、台所の敷居を跨いでいた。 「よし、じゃあ、璃桜さん、昼餉の準備を頼むよ。まずは、一緒にやって、どんどん覚えていって欲しい」 「え、あ、はい」 そう言って私に桶を手渡す源さんに、意図せずともそれを受け取っていた。
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