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「井戸から水を汲んできてくれないかい?」
言われるままに、勝手口から下駄をつっかけ、中庭に出て井戸の傍まで歩く。
カコカコと響く己の足音に助長されるように、源さんの台詞が頭の中を回る。
如何して、今その話を私にしたのだろうか。
全く、先が読めなかった。
まるで、禅問答のように。
私の思考を、奪ってゆく。
それは、からからと井戸水をくみ上げる間も、私の頭から離れてはくれなかった。
歳三が、不器用なのと、私の落ち込みと何の関係性があるっていうの。
最後までつるを引き上げ、ふぅ、とひとつため息を零した。
ふと空を見上げれば、さんさんと、春の太陽が私を照らす。
その暖かさに、その眩しさに。
私も、此処で生きているんだと、実感する。
些細なことで悩んでいる私を馬鹿にするかのように、桶の水面がキラキラと光を放って。
それすら眩しすぎて、手のひらで遮った。
真実を、見たくなかったから。
事実を、知りたくなかったから。
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