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「……璃桜」
その声に、一瞬だけ、傷の痛みを忘れた。
だって、その声の主は。
振り向かなくてもわかる、低く艶やかな声で。
「おめぇ、いねぇと思ったらこんなとこで油売ってたのか。ったく、俺の小姓だったんじゃねぇのかよ」
……………それは、歳三の声だったから。
「夕餉の準備してただけなんだけど」
ひどい言い草に、むっとして、振り返る。
こっちはあんなに気まずくて、いろいろ考えたっていうのに、何でそんな普通なの。
「………あー、喉乾いた。おい、とりあえず茶……………ってお前!!」
振り返ったことで、私が怪我をしていることに気が付いたらしい。
ただ傷を押さえて立ち尽くしていたのを見て取ったのか、焦ったように声を上げた。
「馬鹿……!! 何してんだよ!」
「えへ、切っちゃった………」
「えへじゃねぇよ! この馬鹿野郎!」
「大丈夫だって、そんな深くないし」
慌てたように素足のまま勝手場に下りてきた歳三に、情けない所を見られたくなくて、大丈夫なふりをする。
本当はとても痛いけれど、口角を上げて見せた。
「何、痛いのに笑ってんだよ。指貸せ」
ビッと言う音に顔を上げれば、歳三は己の着流しの袖を力任せに細く破っていて。
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